避妊

避妊は、性行為時に受精や受精卵の着床を防ぎ妊娠を回避することです。
人間は子供を産むためだけではなく、愛情表現や官能的快楽を満たすためにも性行為をおこないます。妊娠出産は経済的、倫理的、社会的理由から負担が大きいため、生殖を目的としない性交をする場合は正しく避妊すること重要です。
特に堕胎は女性の心理的・身体的な負担も大きいため、決して無視できません。
ただ医学が進歩した現代でも100%の避妊はできないと言われていて、どのような方法でもわずかに妊娠する可能性があり条件が厳しいものもあります。
そのため、なるべく多くの避妊方法を知って的確に対処できるようにする必要があります。
避妊方法
避妊方法はさまざまで、基本的なコンドームの装着からピルの服用、殺精子剤の装填、ペッサリーの装着、避妊リングの使用、手術などが挙げられます。
どの方法も完璧に妊娠を避けられることはありませんが、一番メジャーなコンドームは避妊効果が高く性感染症の予防にもなるため推奨されています。
なお、性行為時の膣外射精や膣内洗浄、炭酸水洗浄に避妊効果は全くありません。
これらの誤った避妊をおこない望まない妊娠をするケースも多いため、確実に避妊するため正しい避妊法を理解しましょう。
避妊具
多くの種類がある避妊具の、代表的なものはコンドームです。
コンドームはラテックスやポリウレタン製の薄い膜をサック状にしたもので、男性器に着けるタイプの避妊具です。
挿入する前に陰茎にかぶせて使いますが、避妊の確率を高めるために勃起した直後に装着してずれにくくすることが重要です。
コンドームは陰茎サイズによって色々な大きさのものがあります。
サイズが合わないものを選ぶと性行為中に外れることもありますので、必ずご自分に合ったものをお使いください。自分に合うサイズがない場合は、オンライン通販などで購入できます。
ペッサリーは女性主体でできる避妊具です。もともとは子宮の位置を戻すために用いられていましたが、子宮に被せるように挿入することで精子の侵入を阻害できます。
ゼリーと併用することが多く、また子宮や膣の形状は人によって異なるため、入手には産婦人科の診察が必要です。
子宮内避妊用具(IUD)は子宮内部にリング状またはコイル状の避妊具を置いて受精卵の着床を防ぐことで妊娠を避ける避妊具です。
ただし病院でしか着けられないだけではなく子宮外妊娠は防げないためあまりメジャーな方法ではありません。
避妊薬
経口避妊薬ピルは女性が服用する医薬品で、ホルモン調節により人工的に排卵終了期(黄体期)を保持させ続けることで排卵を止める避妊法です。
月経周期の調節や各月経症の軽減、子宮内膜症など婦人科疾患の治療に使われることもあり、女性のQOL(生活の質)の向上にも有効な薬です。
体に負担の少ない低用量ピルや、さらに成分を調節した超低用量ピルも販売されているため、自身に合ったピルを選べます。
ただし副作用に血栓症やむくみ、イライラ感、吐き気、肥満、腟炎、肝機能障害が生じることもあるため、服用の際は体調を鑑みて必要であれば医療機関を受診しましょう。
また喫煙している方のピル服用は心臓や循環器系疾患の発症リスクを高めることが分かっています。
そのためピル服用時は禁煙しなければいけません。
さらに35歳以上で1日15本以上タバコを吸っているヘビースモーカーや偏頭痛、糖尿病、高血圧症を患っている方は服用できません。
経口避妊薬(OC)以外では、国外において避妊パッチである徐放性剤も避妊薬として使われています。
ゆっくり体に浸透する徐放性剤を女性の皮下に埋めるインプラント方式で避妊効果を発揮する薬で、皮膚パッチ剤のエブラがよく知られています。エストロゲンとプロゲステロンが配合されていて1週間の避妊効果が認められていますが、日本の医療機関ではまだ入手できません。
他にはプロゲステロンを皮下、または筋注射する避妊方法もあり、3ヶ月ごとに注射することで優れた避妊効果を得ることができます。
緊急避妊
避妊をおこなっていてもコンドームが破れたりピルの飲み忘れで避妊できていない場合や、性暴力に巻き込まれた場合、緊急措置として有効なのが緊急避妊です。
緊急時の避妊は、女性が性行為のあと72時間以内にアフターピル(緊急避妊ピル)を服用して急激な子宮環境の変化を起こし受精卵の着床を防ぐことで望まない妊娠を回避します。ただし、医療機関での入手は診察を必ず受けなければいけず、時間経過に伴ってアフターピルの避妊成功率は下がるため手遅れになることも少なくありません。
そのため、万が一のために通販などでアフターピルを常備している女性も多くいます。
アフターピルは徐々に体質を変える低用量ピルと違い、急激にホルモンバランスを変えることで妊娠を阻害する薬です。
副作用が出やすく吐き気やめまい、腹痛、頭痛、乳房の違和感などが報告されていますが、いずれも一時的なもので24時間以上持続することはほとんどありません。
ただし、それでも時間の制約が厳しく体への負担も大きいことから、コンドームの使用や低用量ピルの服用をしておくことが推奨されています。
アフターピルはあくまで緊急時の応急処置に留め、普段からの避妊方法を取るようにしてください。
不妊手術
恒久的な避妊として、不妊手術も有効です。
女性の場合は卵管、男性は精管を縛り卵子や精子の放出を防いて妊娠を避ける方法です。
妊娠を望んでいない夫婦や妊娠が母体の生命維持を損なう可能性がある時、また胎児に影響があることが判明した場合におこなわれることが多い手術です。
通常は経膣や経腹での手術がおこなわれますが、精管に対しては局部麻酔だけでできパイプカットとも呼ばれます。
パイプカット手術をしても精液はなくなりませんので、射精も以前と同じようにできます。
ただし既婚男性は配偶者の同意がなければ施術を受けられません。
避妊効果はとても優れていますが、その分再接続手術後の回復も困難なため軽い気持ちで受けることも非推奨とされています。
女性に関しては、普通分娩や帝王切開手術後の出産直後におこなうケースもあります。
未婚の女性が不妊手術を受けた場合、結婚する前にパートナーにその旨を伝える義務も生じます。
子宮の全摘出手術により不妊となることもありますが、これは不妊が目的というよりは子宮内膜症などの疾患が重い場合がほとんどです。
その他の避妊法
避妊具や避妊薬を使う他には、基礎体温法、オギノ式と言われる方法があります。
リズム式とも言われる基礎体温法は、女性の基礎体温変動と月経周期を照らし合わせて排卵日を予測する方法です。
通常、女性の基礎体温は排卵すると低温期から高温期に変化し、月経が始まると高温期から低温期に変わっていきます。
これらのサイクルを記録し排卵日を予測することで、妊娠するリスクが高い時期に性行為自体を避けることで避妊します。
ただ排卵日の翌々日以降は妊娠しにくいとされていても、排卵日の正確な予測は簡単ではありません。
強いストレスや生活習慣の乱れも不安定な月経周期や排卵日のズレを招く原因にもなるため、基礎体温法だけに頼ることはせず他の避妊法と併用してください。
オギノ式は1924年に荻野博士が提唱した避妊方法です。
こちらは月経周期と関わりなく次回の月経予定日から2週間目とその前後2日間の計5日間を妊娠しやすい日とすることで、その期間の性行為を避ける方法です。
ただし、月経周期や卵子や精子の生存期間は人によって違うため、基礎体温法と同じようにあくまで目安として考える必要があります。
他の避妊方法として、膣への挿入を伴わない性行為も妊娠するリスクがなく有効です。
一方で粘膜から感染症になる可能性もあるため、オーラルセックスやアナルセックスをする場合は行為前にシャワーに入るなど体を清潔にする必要があります。
経口避妊薬(ピル)の種類
経口避妊薬(ピル)はホルモン剤の一種で、避妊ほか月経周期の調節や月経症の軽減に有効です。
1960年代に初めてアメリカで開発されて以降、世界中で多くの女性をサポートしてきました。
避妊にはコンドームや女性主体の避妊具ペッサリーといった方法もありますが、服用タイプのピルは一番高く安定した避妊率が認められています。
有効成分は主に、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類が配合されていて、これらが人工的に体の状態を変化させ排卵を抑制することで妊娠を成立させません。
もし排卵した状態で性交したとしても、ピルの作用で子宮頸管内の粘度を高めて精子の侵入を防いだり受精卵が子宮内膜に着床できないようにするなど作用しますので、非常に高い避妊率を誇ります。
日本で処方されている避妊ピルには、毎日服用する低用量ピルと、避妊ができなかった緊急時に使用するアフターピル(緊急避妊薬)の2種類があります。
含まれているホルモン成分はほとんど変わりませんが、服用方法や注意点も異なるため事前に知っておく必要があります。
低用量ピル
配合しているエストロゲンやプロゲステロンなど女性ホルモンの量を低く調節したピルです。
日本国内のクリニックでは月経困難症の治療薬として処方されています。
低用量ピルは、毎日決まった時間に1錠ずつ服用することで避妊効果を発揮する薬です。
性行為の有無に限らず使用し、もし飲み忘れれば避妊できないリスクもあるため、必ずシートに書かれている通りに飲み続けてください。
なおホルモン量が低いので、副作用はほとんどありません。
飲み始めて数週間ほどは体がホルモン変化に慣れるため倦怠感や軽い頭痛、不正出血が起こることがありますが、飲み続けている内に軽減していきます。
女性のホルモンバランスを整える働きか、避妊だけではなく月経前症候群(PMS)や月経痛や経血量を軽くし月経周期を安定化させる効果にも優れています。
ニキビの改善や多毛症の治療にも用いられていて、美容面での副次効果も期待できます。
また、低用量ピルよりホルモン配合量を低くした超低用量ピルもあります。
子宮内膜症による月経困難症の治療で保険適用される唯一のピルでもあり、副作用の発現率が低く低用量ピルでは合わなかった人でも使いやすいピルです。
トリキュラー
副作用が少なく不正出血しにくい第二世代3相性の低用量ピルです。
配合されている女性ホルモンが3段階に分けられていて月経時のバランスにスムーズに移行できるため、自然で体に負担をかけにくいメリットを持ちます。
マーベロン
黄体ホルモンが全部の錠剤に一定量含まれているピルで、第三世代1相性のメジャーな低用量ピルです。
第二世代のピルより男性ホルモンの働きを抑える作用が強いため、ニキビの改善率もたかくなりました。
ダイアン35
他の欧米で開発された低用量ピルと比べて、体つきの小柄なアジア人女性向けに作られた低用量ピルです。
副作用が出にくく他のピルでは合わなかった方も飲みやすいピルとして人気があります。
メリアン
超低用量ピルで、現在出ているピルの中で一番女性ホルモン量が低く、副作用もほとんど感じないと言われています。
高い避妊効果は変わらず、さらに更年期ホルモン療法にも用いられている信頼性の高いピルです。
ヤーズ
第四世代の超低用量ピルで、最長120日連続服用できます。
28日周期で服用する他のピルより休薬期間中の頭痛や骨盤痛が減らせる他、月経そのものを遅らせることもできるため出血回数や痛みを感じる数も軽減できます。
アフターピル(緊急避妊薬)
毎日飲み続ける低用量ピルと違い、避妊に失敗した時やトラブルに巻き込まれた際の緊急時に服用する避妊薬です。
アフターピルは2種類で、12時間の間隔で2回ピルを服用するヤッペ法と72時間以内に1錠飲むレボノルゲストレルがあります。どちらも避妊できなかった性行為から早く飲むほど高い避妊効果が得られますが、遅くなるほど妊娠する確率が高まっていきます。
なお、レボノルゲストレルの避妊成功率は性交12時間以内で99.5%、24時間以内で98.2%ほどです。
2回決まった時間に飲まなければいけないヤッペ法より手軽で飲み忘れる心配もないため、多く選ばれる傾向にあります。
アフターピルは低用量ピルと比べて配合ホルモン量も多く短期間で体内のホルモンバランスを変える性質から、吐き気や頭痛、倦怠感などの副作用が出やすい避妊薬です。
体への負担も大きく常用できませんので、あくまで緊急時の使用に留めてください。
ノルレボ
黄体ホルモン、レボノルゲストレルが主成分のアフターピルで、発売されて以来世界50ヶ国以上で販売されてきました。
これまで主流だったヤッペ法より妊娠回避率に優れ副作用が少なく安全に使えることから、日本でも多くの人をサポートしている人気の高い緊急避妊薬です。
アイピル
WHO(世界保健機構)から標準的緊急避妊方法のエッセンシャルドラッグ(必須薬)の指定を受けているノルレボのジェネリック薬です。
ノルレボと同じ高い避妊率でありながら低価格で入手できることから、世界で最も利用率が高いアフターピル後発薬です。